nazuna_antique ~灯ものの話 その1~
油皿
いにしえより庶民の暮らしの身近にあった道具。
受け皿の上にもう一枚皿を重ねて油を注ぎ、
灯芯を浸して灯りをともす。
その小さな光はあまりにもはかなげで、
夜の闇の中に吸い込まれてしまいそうなほど。
油皿に使われていた油は、菜種油などの植物油は高価だったため、
庶民はもっぱら魚の油を使っていたという。
怪談話の化け猫がどうして行灯の油を舐めるのか不思議だったけれど、
それが魚の油だったとしたら頷けるというもの。
このなんでもない暮らしの雑器である油皿が、
何故か心を引き付けてやまない。
無駄をそぎ落としたシンプルな形。
良く見ると皿の底に重ね焼きの痕があるものや、
ろくろから外す時に使った糸きりの痕があるものなど。
「油皿」というたかが小さな暮らしの道具だけど、
そこかしこに手仕事で作られてきた痕跡が確かに残っている。
明治に入ってガラス製品が安価に作られるようになり、
灯りの道具は、油皿からガラスランプへと移り変わって行く。
豆ランプ
ガラスに残るぷつぷつの気泡。
大正以前のガラス製品には、ぷつぷつと気泡が入っているものが多い。
それが逆に灯りを点したときの暖かな表情になり、
味わい深い魅力になっているのだと思う。
昭和以降は技術の進歩で、こういったガラスは無くなり、
今では珍しいものになってしまっている。
今のように電気のない時代、
陽が沈んでからの夜の闇はどれほどに深いものだったろうか。
そんな夜の闇を経験してみようと、
真っ暗な中で油皿と小さなガラスランプに灯りを点してみた。
闇の中でちらちらと瞬くように灯っている光のなんと儚く頼り無いことか。
けれども暫くの間じいっとランプや油皿の炎を見つめていると、
まるでキャンプでの焚き火の炎を見入るように、
部屋の中も心の中も暖かい心地よさに包まれて行く。
こんな小さな灯りものだけれども、
何か心に豊かな糧を得たような気さえしてくるほど...。
電気を消して、珈琲やお酒を片手に静かな夜を過ごすのに如何でしょうか。
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